スタッフコラム
吐夢の言葉
2004/10/16 — 第102号
1960年(昭和35年)—当時の私は東映企画本部脚本課に在籍していたが、これから管理職の道を歩むか、あるいはシナリオライターとして独立するか、人生の半ばで一つの岐路に立たされていた。
巨匠・内田吐夢監督から『宮本武蔵』全5部作のシナリオライターとして指名されたのは、ちょうどそんな迷いの時期である。全くの新人である私の抜擢を周囲は無謀とも受け取ったが、吐夢の意志はあくまで堅かった。「『宮本武蔵』は人間成長の物語です。1年1作、5年かけて創りあげてゆく中で君たち自身も成長していってほしい」クランクインの日、吐夢からスタッフに下された宣言は、私自身に対する励ましとも脅しともとれる、重い言葉だった。
それからの5年間、私は吐夢という巨大な怪物と闘い、ボロ屑のように打ちのめされながらも『宮本武蔵5部作』を、『飢餓海峽』を書いた。吐夢の盟友である田坂具隆監督と『ちいさこべ』『五番町夕霧楼』『鮫』『冷飯とおさんとちゃん』『湖の琴』。社会派の巨匠・今井正監督と『武士道残酷物語』。同年代の篠田正浩、加藤泰監督とは『あかね雲』『遊侠一匹』……。他の監督と組む時、吐夢は「ちょっと武者修行して来いよ」といつも笑ったが、そこには息子を送り出す父のような厳しさと慈愛があふれていた。今回、新文芸坐で特集される私の作品群を眺めて、天国の吐夢は果たしてどう呟くことだろう。
— 鈴木尚之 検索
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