スタッフコラム
映画にまつわる食べ物の記憶
2005/07/01 — 第119号
成瀬巳喜男監督の映画には、様々な印象深い食べ物が登場します。『おかあさん』の中では、クリーニング店の職人である加東大介の一日の仕事の終わりに、田中絹代がそっと差し出す“一杯の冷や酒と茶碗に盛られた塩豆”、同じく『おかあさん』の中で香川京子ら子供達がピクニックに行く時に、幼馴染みのパン屋のシンちゃんが焼いてきた“ピカソパン”(両手に抱えるほどの大きさで、食べていくとあんやクリームやジャムが出てくる抽象画のようなパン?!)、『流れる』の中では、通いの芸者である杉村春子が「ソースある?」と言いながら台所に入ってくる時に手にしている“コンビーフ”や“コロッケ”、そして『稲妻』では、高峰秀子が二階借りをしている家の奥さんが作ってくれた“長ーい、長ーいお蕎麦”。それらの食べ物は、直接にはストーリーの展開とは関係がないのですが、その映画にはなくてはならないモノとして観客の記憶の中に刻み込まれていきます。だから、映画を観た後にはその映画に登場した食べ物が食べたくなってしまうのでしょうか?帰り道に立ち寄った蕎麦屋でざる蕎麦を食べながら、今観てきた映画を思い起こして一人で笑ってしまったり、今日の夕飯はコロッケにしようと肉屋でコロッケを買って帰ったり。そうすることによって、その映画を何度も楽しんでいるかのようです。◆生誕百年記念“名匠成瀬巳喜男の世界”は当館にて、7月9日(土)〜22日(金)、ニュープリント10作品を含む計28作品が毎日替、2本立てで上映されます。さて、今回の特集では帰りにどんな食べ物が食べたくなっているでしょうか?
— 佐野久仁子 検索
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