スタッフコラム

オーストリア・ドイツ発のドキュメンタリー『いのちの食べかた』

2008/04/01 — 第185号

昨今何かと話題の“食”に関するドキュメンタリーなので、きっと扇情的な作品かと思ったら一風変った作風でした。一口で説明すると、野菜から魚、肉といった食品の生産から加工まで全てが、最新技術と大規模な機械化によって徹底的に合理化されている、そんな現場の様子……。カメラは黙々と作業をする人や機械を淡々と映します。ナレーションや解説は一切なし。画面はほとんど左右対称の構図になっていて、幾何学的な美しさも感じられます。■何をやっているのかよく分からないシーンもあります。例えばこんなシーン。大きな牛の横に白衣を来た男。男はやおらナイフで牛の横っ腹を裂き始めます。牛は平然と立っています。局部麻酔をしているのでしょうか。男は今度は牛の腹に手を突っ込み、なんと子牛を取り出したのです。マッドサイエンティスト!? パンフを読むと実は帝王切開での出産でした。この種の牛は子牛が大きいので、この方法がよく採られるそうです。読めば納得ですが、いきなり牛の腹を裂き始めたら、そりゃビックリです。■一匹の生き物が肉製品になっていく映像には、思わず目を伏せたくなるところもあります。また一方には、例えば私たち日本人は1年に300万トンの肉を消費するという現実。果たして、この映画を見ることの意義とは。映画監督・森達也はこう言っています。「矛盾は矛盾として受容せねばならない。」「意識におくこと。目をそむけないこと。凝視すること。そのためにこの映画はある。」■当館でも「秀作映画特集」のような形で上映したいと思っています。見ることが試練である、そんな映画もあっていい。森監督の言葉をもう一つ。「映画はやがて終わる。あとは観終えたあなたの問題だ」

— 矢田庸一郎 検索