スタッフコラム
映画スター高倉健の履歴書
2012/09/16 — 第263号
映画俳優・高倉健の6年振りの主演作品『あなたへ』が公開されている。映画『あなたへ』での健さんは、先立った妻が遺した手紙によって、富山から長崎平戸に旅を続ける夫役を演じている。スクリーンの中の健さんは、圧倒的な存在感で飽くまでカッコ良く撮られているが、野菜を刻み、イカを洗い、ハンドルを握る手の甲に無数のシミが映される。■健さんファンにとっては、イメージを損なうシーンではないかと思った。しかし、健さんが主演した『網走番外地』『八甲田山』『南極物語』では、極寒の地で雪にまみれ、吹雪にさらされ、『単騎、千里を走る。』では中国の砂漠の辺境の地で灼熱の太陽に焼かれ、砂嵐にさらされている。健さん自ら選んだ?過酷な条件のロケーションが手の甲のシミに現れている。手のシミは、健さんの履歴を物語る誇り高き勲章に値する。■下町に住んでいると、手の五本指が親指と同じ太さの職人、グローブのように大きく分厚い手の職人を見かける。米、英国では、手先の技術が下手で不器用なことを「All Thumb=オール親指」という隠語があるが、我国の職人の武骨な手は、歴史が刻み込まれ染みこんだ勲章である。『男の顔は履歴書』(66年、加藤泰監督)という映画があったが、職人、健さんにとっては、「男の手は履歴書」である。■健さんが雑誌のインタビューに答えて、「じじいなんだけど、自分にはそんな自覚はありません。声がかかる限り仕事はします。長く生きているものとして、経験も感謝も恨みも、伝えていきます。」と言う。寡黙で知られる健さんが、『あなたへ』の宣伝のために、不似合いなTVに出演したことは、今後の布石だったのである。日本映画最後のスター高倉健の前向きな姿勢を敬愛し、次回作にも期待しよう。
— 永田稔 検索
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