スタッフコラム

若尾文子特集は、日本映画祭か?

2013/02/01 — 第272号

井上ひさしの小説「青葉繁れる」の中で男子高校生が憧れるマドンナは、若尾文子がモデルで井上ひさしも憧れていたという。仙台での高校時代は、無口で暗い地味な存在で、“石仏”と仇名されていた若尾文子が、長谷川一夫の楽屋を訪ねて弟子入りを直訴する大胆な行動をする強い信念をもった美少女であったという。■中学生の頃、地元の三本立て映画館で、中村錦之助主演の「新諸国物語 紅孔雀」を観た時に、併映していた「十代の性典」を観て、若尾文子のファンになってしまった。「十代の性典」は、ポルノまがいのタイトルであるが、過激な場面があるわけでなく、セーラー服姿の丸くポッチャリした若尾文子も好感だが、特徴のある魅力的な“声”に、大人の女を感じた。■「十代の性典」は、三部作になるヒット作品になり、若尾文子は人気スターになったが、“セクシー女優”の評価が不本意で、引退を考えたこともあったという。その後の若尾文子は、天性の美貌と強い信念による女優魂によって、日本映画界を代表する巨匠、名匠監督との出会いにより鍛えられ、可愛がられて大女優に成長した。詳しくは、『女優 若尾文子』(キネマ旬報社刊2940円)をお読みいただきたい。■『女優 若尾文子』は、川本三郎のロングインタビュー、佐藤忠男、上野昂志など当代一流の映画評論家の執筆に若尾文子自薦の作品、アルバム、グラビアなどによって、大女優への軌跡が分かり、映画論、女優論としても永久保存版と言える。■今回の刊行記念の特集上映のラインナップを見て分かる通り、溝口健二、増村保造、小津安二郎、吉村公三郎、川島雄三、山本薩夫、今井正監督など日本映画界を代表する巨匠、名匠監督の作品28本の上映は、日本映画オールタイムベスト作品ばかりである。映画興行としては、若尾文子一女優の特集番組であるが、日本映画祭クラスのグレードの高い番組編成である。

— 永田稔 検索